あなたは「ブラック・ダリア事件」をご存知ですか?
1947年アメリカのロサンゼルスで発見された
女性の惨殺死体。
血は抜き取られ、腰から真っ二つにされた状態で発見された
「ブラック・ダリア」ことエリザベス・ショートの事件は、
その遺体の痛ましさから当時の全米で話題になった
といわれるほどでした。
しかもその顔は口裂け女のように
耳から耳まで切り裂かれていた。
というから気味の悪さに拍車がかかっています。
当時の日本は戦後間もなくのこと。
遠く離れたアメリカのことなど関心の片隅にもないはずで、
日本ではあまりなじみのない事件といわざるを得ません。
とはいえ最近ではワイドショーや映画などで話題になったこともあり
知ってる人も多いはずのこの事件。
現実では犯人未逮捕の未解決事件を
ジェイムズ・エルロイはどう紐解いたのでしょうか?
読んでみた感想を交えながらお話していきます。
ブラック・ダリア事件とは?
さて、まずは実際にあったブラック・ダリア事件とは
いったいどんなものだったのでしょうか?
ジェイムズ・エルロイの小説に出てくる
エリザベス・ショートも
|
についてはほとんど実際の事件に即していて、
参考までに事件の概要を知っておくとより楽しめそうですね。
遺体が発見されたのは1947年1月15日のこと。
1947年というと日本では昭和22年にあたります。
ロサンゼルス市内の空き地で、
午前10時頃娘と散歩していた地元民に発見されます。
最初はマネキンが投棄されてると勘違いされたそうですが、
全身の血を抜かれた彼女の肌は青ざめた白色になっていた
ということなのでそれも無理からぬ話ですね。
腰の部分で完全に二つに切断されている他、
腿や胸にも数箇所に切られた傷があったそうです。
小説の中ではバットで殴られたような傷や
片胸が切り取られているなど、
拷問を受けたとされる記述もありました。
そして真っ二つにされた遺体のほかに目を引くのが
口角から耳までが切り裂かれた顔。
アメリカやヨーロッパなどでは
「グラスゴー・スマイル」
と呼ばれていていて日本人の私には耳慣れないですが、
いわゆる「口裂け女」のような顔にされていたわけです。
小説ではこのように口を切り裂かれた理由を
ヴィクトル・ユゴーの「.笑う男」
に見出してます。
ヴィクトル・ユゴーといえば「レ・ミゼラブル」
で有名なフランスの作家ですよね。
もちろん「笑う男」が気になった私は本を探してみたんですが、
残念ながらこの本は唯一出版されてる和訳はすでに絶版で
手に入れることが難しそうです。 無念…
それで、そんな状態で発見された人物こそ
エリザベス・ショートという22歳の女性でした。
田舎から映画スターの座にあこがれて出てきたものの、
端役にもありつけないまま娼婦まがいのことをして
生活を繋いでいたそうです。
挙句殺されてしまうのですから、
まさに落ちるところまで落ちた
という感じですよね。
あんな無残な殺され方をしているので、
相当な恨みでもあったか快楽殺人かの
取りたかじゃないかと私は思います。
誰がどういう理由で彼女を殺害し、
遺体を切り刻んで放置したのかは
未解決のためわかっていません。
ですがこの人目を惹く無残なこの猟奇殺人は、
小説の題材として惹かれるものがありますね。
ブラック・ダリアと呼ばれた経緯は?
小説の中では
映画関係者の目を引くため
いつも黒づくめの服装をしていた
といわれています。
他にも髪に黒いダリアを差していたから。
など諸説あるようです。
「ブラック・ダリア」を読むきっかけ
この「ブラック・ダリア」を読むきっかけとなったのが、
以前レビューしたゲーム作品「FLOWERS四季」です。
この作品に登場するダリア先生から連想して
たびたび登場するのがこの
「ブラック・ダリア」と呼ばれる本でした。
この「FLOWERS 四季」では
たびたび本や映画のセリフや一文などが引用されていて、
元の作品はいったいどんな内容なんだろう。
と思うことがありました。
中でも「ダリア」という共通する名前を持つ登場人物の本ともなれば、
いったいどんな話なのか気にならないわけがありません!
実際に読んでみると、
猟奇殺人事件ということで過激なシーンはもちろん、
エッチな表現やシーンも多数含まれていて、
これを高校に上がったばかりの少女たちが本当に読んだのか?
と驚きを隠せないものでした。
「濡れ場のようなところがあって」というセリフを
赤面しながら言っていた蘇芳ちゃんにしては
とても過激な本を読んでいますねー。
ブラック・ダリアを読んでみて
始まりは長い前振り
とにかく「ブラック・ダリア」事件が発生するまでの
前振りがすごく長かったです。
主人公バッキー・ブライチャートと
その相棒リー・ブランチャード
その二人の出会いと刑事の相棒になるまでの経緯を
約100ページにわたって書かれているこの長さ!
いつ本題に入るんだとじりじりしながら読み進めていました。
名前がすごく似ているこの二人ですが、
警察官になる前の経歴が
元ボクサー
というところも共通しています。
この二人の警察内での賭けボクシングから話がはじまります。
名前が似ているので、
どっちがどっちだ?
とよく混同していました。
主人公ブライチャートを通称アイス
相棒ブランシャードを通称ファイア
という呼び分けもあって、
二人の性質もわかってわかりやすい通称がありがたかったです。
しかし、話の核心「ブラック・ダリア」の
事件のじの字も全く出てこないため、
ここを読むだけでとてつもない疲労感に襲われました。
この二人の出会いは、
後の「ブラック・ダリア事件」で深い意味を持つことになりますが、
それがわかるまではなんて長い前振りなんだと
ひたすら思うばかりでした。
ブラック・ダリア事件発生
約100ページに及ぶアイスとファイアの出会いの後、
ようやく「ブラック・ダリア事件」が発生します。
ジュニア・ナッシュという手配犯を追っていた二人が、
彼のアパートの近くでエリザベス・ショートの
遺体発見現場に出くわしたことがきっかけとなり、
事件捜査員数100名
といわれる数の中に組み込まれます。
相棒となりブライチャートとブランチャード、
2人のタッグで捜査をするはずが、
この「ブラック・ダリア」事件において
2人で捜査しに行く場面がほとんど
見られなかったのには驚きでした。
前振りで100ページもかけて相棒となり、
一緒に事件の捜査をしていく中で
2人の絆が深まっていくものと信じていましたが、むしろ逆。
無残な殺され方をしたエリザベス・ショートの死によって
二人の人生は狂わされていくのでした。
「ブラック・ダリア事件」発生の少し前。
2人が手配犯を追ってる最中、
4人の黒人男性を殺害したところから
彼らの離別の兆候は陰りを帯びていました。
乱闘になった経緯は成り行きかと思いきや、
実は仕組まれたことだったということに、
ある人物に空恐ろしさを感じました。
1940年代のアメリカ警察は無法地帯?
この本を読んで何よりも驚かされたのが、
法で人々を取り締まる警察側である
主人公たちの行動です。
主人公ブライチャートは立ち寄ったバーで
情報集めとともに酒を飲み、
そのまま飲酒運転は当たり前。
更に職務中に知り合った女性と平気で職務中、
あるいは時間外で彼女との逢引を楽しんだり。
結婚しているにその件の女性と不倫したり…
(ってこれは主人公のモラルの問題ですね)
日本の警察では考えられないようなことが、
普通に書かれているのに驚きました。
また取り締まりに銃で脅したり暴力はもちろんのこと、
事件供述さえ脅しや買収、拷問まがいの暴力を加えるとあって
信じられない気持ちでした。
検事のエリス・ロウは
自分に都合の悪い供述を握りつぶそうとするし、
事件に対して公正な検事が呆れてしまいます。
挙句相棒のリー・ブランチャードは実は犯罪者だった!?
という事実に驚きを隠せません。
これに関してはさすがに
物語だけのことだと思いたいですけどね。
私はアメリカ社会に詳しくないので、
こういった本が出回るくらいには
こうした警察の実態が当たり前だったのか?
と思ってしまいますよねー。
犯人にたどり着くまでの長い道のり
主人公が犯人にたどり着くまでには、
事件発生から2年という本当に長い道のりがありました。
その間、主人公は刑事から昇格もかくやというところから、
ただの夜勤周りの巡査に落とされ最後には免職を食らいます。
「ブラック・ダリア事件」の被害者エリザベス・ショートに
狂わされたのは言うまでもありませんが、
もう一人、
相棒のリー・ブランチャードに狂わされた
といっても過言ではありません。
最後まで読み進めれば、
こんな男を相棒と仰いでいたなんて
と思われることでしょう。
最後に
外国文学の本は昔からよく読んでいて
私にはなじみ深いものでしたが、
この小説はとても読みにくかったです。
というのも、アメリカやヨーロッパ諸国ならではの、
名前の愛称呼びや隠語表現になじみがないので
エリザベス・ショートと名前一つとっても、
|
など、その時々によって変わる呼称に
ひどく戸惑いました。
被害者の名前だけでこれだけあるのに
全ての登場人物でそれなので、
読みにくいっと言ったらありませんでした。
私は「ブラック・ダリア」事件のことは全く知らなくて、
読み終わって訳者のあとがきを見るまでは
こうした惨殺事件は物語の中だけのこと
だと思っていました。
まさか本当にこんな事件があったんて
びっくりしました。
犯人に至るまでの推理、筋道はとても面白く、
すっきりと終わる最後だったのもよかったです。
ただ、ところどころでの主人公の暴走、迷走の寄り道は
すごく長々と寄り道をしていて感情移入もできなかったため、
私にはとっても読みずらかったです!
未解決の「ブラック・ダリア事件」の一つの終幕として
一度手に取ってみてはいかがですか?
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